このページは「漢方知識の部屋」と名付けました。
先達の膨大な知恵の蓄積の一部でも紹介できれば幸いです

 現代漢方四方山話
第1話 老中医の漢方よもやま話


 見直される漢方
漢方薬の種類
漢方薬の煎じ方と保存
漢方薬の効き目



見直される漢方        

漢方は皆さんよくご存じのように、古代中国に発生した草根木皮などの天然物を用いた医療です。この漢方には患者さん個人々の素因、病状の特徴に注目した独自の診断技術・治療法があります。これは、診断技術が進歩した現代医療の中でも見直されている診断術です。つまり病名が決まれば患者さんの素因に関わらず薬が決定される現代医学に対し、患者さんの特徴を考慮して処方を決定する漢方では、同じ病名でも処方が異なることがよくあります。薬の量においても145cm40kgの成人女性が大人量で165cm70kgの小学生が子供量になってしまう平均の医学が現代医学ですが、漢方では患者さんの状態に応じて量の加減も薬の加味も行われます。より患者さんの立場に立った治療というわけですね。

現代日本の漢方のルーツを探ると「傷寒論;しょうかんろん」という医学書の理論を重要視する古方派(こほうは)と金元時代に伝わった中国医学の処方をよく使う後世方派(ごせいほうは)に大きくわかれます。どちらの処方も用いる折衷派もあります。また中国で発展した中国医学を伝承する中医学(ちゅういがく)もあります。
このように漢方にはお茶やお花のように流派が有りますが、どの流派のどの処方が良いというわけではありません。患者さんの特長をしっかりとらえた処方の方向性はそう異なるわけではありません。(・・のはずです。)この術は少しづつではありますが客観的に評価され科学科されつつありますし、現代医学の医師はそれぞれ良いところを取り入れようとしています。

・漢方の診断
漢方には望・聞・問・切という4つの診察法を用いる独自の診断術があります。患者さんをよく見て、患部をよく観察して、よく話を聞いて、しっかり触診するということが基本なので、西洋医学も同じです。・・が基本的に病名を付けるための診断ではなく、薬を処方するため、患者さんの特徴を捉えるための手段といえます。また舌診や脈診など特異な診断術や腹診も臓器的なとらえ方というより、漢方的な投薬指針をとらえるための要素が大きいと言えます。

漢方薬の種類

漢方薬には丸剤、散剤、湯液(煎じ薬)、軟膏などの剤型があります。それらをエキス化して顆粒状にしたエキス顆粒や錠剤にしたエキス錠、またはドリンク剤やトローチになったものもあります。

一般に病院・クリニックにおいて健康保険で使われる漢方薬の多くはエキス顆粒です。煎じ薬や散剤も健康保険に適用していますが、調剤・保管の手間などのためにコストが高くつき保険で扱うには、医院の負担の大きい薬剤となっています。そのため当財団付属診療所のように煎じ薬の保険取り扱いの医療施設は少なく、多くは保険の利かないお薬として扱われているのが現状です。(煎じ薬の健康保険取り扱い施設)

・漢方薬と民間薬の違い

民間薬は民間で伝承されてきた、単味で用いられる薬草、薬酒です。対して漢方はいくつかの生薬をブレンドし、体系化された理論の基に使用されます。民間薬の中には漢方薬の中に含まれるものもありますが、漢方には柴胡や麻黄、附子等のように投薬量に注意すべきものが多くあります。そして薬剤師や医師以外は処方してはいけません。

漢方薬の煎じ方

容器:どびんやガラス鍋がよいのですが、壊れやすいので一般にはほうろう鍋を薦めています。煎じ専門の鍋も市販されています。鉄鍋や銅鍋は避けましょう。
煎じ時間、水の量:一般的には水600−800ccに漢方薬(キザミ)を入れ、半分になるくらい吹きこぼれのないように、煎じます。それを濾して基本的に1日3回に分けて服用しますが、薬によって水量・服薬量は異なりますし、中には薬剤が多く煎じる水を吸湿して、普通量の水では煎じ薬が出来ない場合もありますので、薬剤師さんの説明を良く聞いて下さい。
煎じたものは原則的にその日のうちに服薬しましょう。



水を600−800ml

沸騰後とろ火で煎じます

半分になるくらい煎じます



茶こしで濾してできあがり 3回に分けて服用します
漢方薬の保存

煎じ薬(キザミ;煎じる前の生薬)もエキス剤もできるだけ密閉した容器に入れ、湿らないようにします。冷蔵庫に保管するのがよいでしょう。散剤・エキス剤は冷蔵庫から出して放っておくと吸湿(結露)しやく、固まったり変色する原因になるので注意して下さい。


漢方薬の効き目

西洋薬は作用が明確で、切れ味の良いお薬は多いですが、漢方薬にも風邪などの急性疾患の初期に切れ味の良い効果的が期待できるものがそろっています。そしてこじれた場合は弱った免疫力を補う漢方薬が用意されています。病状にあった薬(薬効の方向性)とタイミングを重要視することにより漢方の効果が明確になります。
また一般的なお答えになりますが慢性疾患で長期投薬を余儀なくされる疾患には漢方は副作用も少なく良いと思います。

最近、漢方薬の副作用が論じられていますが、やはり漢方薬は薬なのですから使用には当然注意が必要です。ただし西洋薬と比較すると相対的に力価の低いものが多いのですから、効果的な反応を期待するときは、漢方薬の方極(最も効果的な使用目標)を良く理解して、患者の証(症状、素因)を良く把握して治療に行うものと認識しています。安易にだらだら使用するものではないでしょう。そして証にあった漢方薬の効果は非常に切れ味の良い効果を示すものです。効く効かないや副作用については漢方薬だけに責任があるとはいえないと思います。
また漢方薬は魔法の薬ではありません。西洋医学で難病は漢方医学でも治療が難しい病気であることには違い有りません。ただ漢方は西洋医学と違う切り口で患者さん(病気)と接し治療を行いますから、思わぬ効果が(漢方理論では予想しうる)有ることが多々ありますが、これは漢方(家)が漢方(医学)の理論にのっとり、(感性も加味して)漢方(薬)を使用したことに他ならないのです。現在の疾病に対して漢方医学が100%最善の医療ではないと思いますが、西洋医学も100%ではないと思います。患者さんのためにもっとも良いと思われる治療の一つに漢方があり、最善の漢方治療を提供したいと我々は考えているのです。

また煎じ薬の方がエキス剤より効くかという問題もありますが、より患者さんにあった漢方薬は煎じ薬の方が処方しやすいですが、煎じる手間や保管のことを考えると、簡便なエキス剤も非常に使いやすいお薬であることは間違い有りません。精通した医師はエキス剤のブレンドや量の加減も患者さんの状態を考慮して行っていますから、有効性も高いものです。
・漢方はどんな病気に効くのでしょう

先にも述べましたが、漢方はどんな病気にでも効くとは限りません。しかし症状の緩和を含めて有効な疾患は数多くあります。ただこの疾患に、この症状に、この漢方薬、またまたこんなのもありますという紹介がよくなされますが、これは代表例であり、本来漢方には一つの症状に無限大の処方が用意されています。最初の右・左を間違えなければ大きな問題にならないでしょうが、やはり多くの情報の基に処方すること必要です。精通された先生に診察を受けて処方してもらうことをお勧めします。

一般的に漢方治療が行われている疾患・症状をご紹介しておきます

高血圧症・高脂血症・糖尿病・痛風・肝機能障害・肝炎・肝硬変症・慢性胃炎・胃潰瘍・花粉症・鼻炎・メニエル氏病・気管支喘息(小児喘息)・自律神経失調症・不安神経症・神経痛・不妊症・アトピー性皮膚炎・主婦湿疹・乾癬・蕁麻疹・ニキビ・骨粗鬆症・頸椎症・腰椎症・膝関節症・悪性腫瘍

めまい・頭痛・耳鳴り・冷え・不眠・胃痛・肩こり・腰痛・膝痛・月経不順・頻尿(夜間頻尿)・残尿感・便秘・掻痒感

このように漢方治療の対象は多岐にわたっています。