寒い季節になってきました。今回は冷えを自覚していない人の冷え(?)の話です。通常、冷えを感じやすい人やその状態を冷え性と“性”の字を使い、冷える性質・体質という意味としてとらえていますが、タイトルはあえて“症”としました。それは、冷え症は様々な病状につながる『万病の元』となり、一つの症状と考えられるからです。
冬になると手足が冷える方は、冷え症としての自覚があり、個々の環境や体質に合った対策を考えておられることでしょう。しかし、今回のテーマは“隠れ”です。汗っかきでも冷えていることがあります。また、肌の乾燥もしかりです。ではどのようなことが起こっているのでしょう?
冷えをはっきりと体表で自覚しない方でも、実は体内~特に腹部や骨盤内~に冷えを保っている方を診察室ではよくみかけます。おなかや足を触診(直接触れて診察すること)して把握することもありますが、漢方医学の場合、症状やそれが起こった時期・季節、きっかけになるような出来事、季節と食事内容を問診することでもおおよその見当がつく場合があります。
例をいくつかあげてみましょう。
例1. 初秋~秋の突然の下痢
Aさん : 「特に悪い物は食べていないし、生活も変動ないのに突然下痢をしたんです。熱もありません。少し体がだるいです。」
漢方医 : 「水分の摂りすぎはありませんか?温かい水と冷たい水はどちらが好きですか?」
Aさん : 「水は摂らなくてはいけないんでしょう?冷たいのを頑張って飲んでます。」
漢方医 : 「いつからそのようにたくさん水を飲んでいるのですか?」
Aさん : 「以前から気を付けていますが、特に夏は熱射病になってはいけないと思って・・・」
このような方の場合は、クーラーの中にいても“暑い季節だから”と言う理由で同じように冷水を飲んでいます。胃腸でその水分は温められますので、胃腸も弱ってきます。また、運動不足・加齢・夕飯時の冷たいビールなどの蓄積により代謝の効率が低下し、水分を停滞させ、またその停滞した体内の水分が冷えるという悪循環をおこします。
現代は暑くてもクーラーなどで冷える環境が多くなっています。夏でも、ざるそばの後のそば湯のように少し食後や休憩時に温かいものを摂ってください。摂取する水分も体にあうように考えることが必要です。
例2.上半身の汗
Bさん(60代後半、女性 : )「最近、少し歩くと汗が出て困るんです。更年期の再来のようで・・・。」
漢方医 : 「足が冷えたり頻尿にはなっていませんか?」
Bさん : 「以前は冷え性だと思っていましたが、歳をとると変わるんでしょうか?あまり冷えは感じないような気がしますが、そういえば夜間にトイレに起きることがあります。前はなかったのに・・・。」
このような方の場合、長年の体質的冷えや腎陽(先天的の持っているエネルギー)の低下で知らず知らずの間に下半身に冷えが停滞し、“陽”のエネルギーがダイナミックに上下を廻りにくくなり上方にばかり“陽”のエネルギーが停滞するため、“のぼせ”の症状を上半身にのみ表している状態です(上熱下寒)。本人が冷えないと言っても、足首を温めると“以外にも気持ちいい”とおっしゃることが多いのも特徴です。
この他に、冷えから来る水分代謝の低下から、むくみなどいらない体内水分(水毒)は持っても、細胞が必要とする“津液”(しんえき)が作られなくなり、肌や唇が乾燥する場合もあります。
これらは例の一つですが心当たりのあるかたはおなかに手を当ててみてください。お臍の周囲や下腹部がひんやりしている方は漢方的“腎”の部分が冷えている可能性があります。胃のあたりがひんやりしていたり水分でダボダボしている方は水分の摂り方に注意してください。冷水の摂りすぎではないのに胃に水分の停滞をおこす場合は、茯苓飲・二陳湯・六君子湯・小半夏加茯苓湯などが適応になります。例1は飲食の摂取の仕方を考慮することが第一ですが、続く場合には胃苓湯や小建中湯なども良いでしょう。面倒くさがらずに少しずつでも体を動かすことも大切です。例2の場合などは柴胡桂枝乾姜湯などが良い場合があります。隠れ冷えを作らないようにして代謝のよい体をつくりましょう。