皆さんは鍼灸治療にどんなイメ-ジをお持ちですか?「肩が凝ったとき、凝ってる ところを捜してブスッと…。」
でも実際の治療は、体全体の状態の観察からはいります。四疹(望・聞・問・切)(注1)によって患者さんの状態を把握分析して、治療方針を決め、経絡(注2)を選び経穴(ツボ)をきめて治療します。ですからたとえ肩こりでも色々お聞きしたり、舌や脈を診たり、肩、首、だけでなく手、足、お腹、背中、頭、顔などにも鍼や灸をします。ただブスッと刺すのではなく、体の状態にあったやりかた(例えば体が弱ってる方、初めての方にはそれなりの軽度の刺激量で等)で行ないます。
(注1)四疹
望疹:外からの観察、神色形態の異常の有無、面部と舌部の状態を把握。
聞疹:言語・咳・喘鳴・胃部の水振音・口臭・皮膚臭など。
問診:生活習慣、人事環境、発病過程及び自覚する苦痛の状態を知る。
切疹:脈拍や体表に触れる。
(注2)経絡(けいらく)
気(生命のエネルギ―)の運行に深く関係する独特の道筋。経には路、径の意味があり幹をあらわす。絡には网の意味があり、横のつながり。つまり、経絡の縦横の道筋によって気は全身に運ばれ循環しているのです。
経絡は、臓腑や組織に対応して12経あります。さらに顔~胸~腹の中央を通る任脈(にんみゃく)と、後頭部~背中の中央を通る督脈(とくみゃく)があります。この14経の道筋の上(体表)に361の経穴(ツボ)があります。
経穴(ツボ)に鍼や灸をして、気・血・水(津液;しんえき)の流れを調節し、経絡に「気」が滞らないように循環させて人体の各器官の働きを正常にもどす、東洋医学療法です。
経穴(ツボ)はほとんど経絡上にあります。営気(栄養となる気)と衛気(身体を守る気)が循環する経絡の要所です。経穴は、生命エネルギーが集中する点であり、同時に病気に反応したり、外邪(外からの病原)の侵入する所でもあります。
その要所が鍼灸の施術部位になるのです。
東洋医学でいう生命エネルギーとは、気・血・水(津液)を指し、とくに「気」に重きがおかれています。経絡はそのエネルギーを各器官に供給し、機能を調節して基本的な生命活動の重要な役割を担なっています。これは今から2000年前に、様々な病気の多くの臨床経験から理論体系を形づくられた中国の伝統医学です。
近年では鍼灸の効果や経絡などが科学的、西洋医学的にも理解されはじめています。気・血・水(津液)が循環する経絡は、解剖学的には血液と神経系統、リンパ液の循環と考えられています。確かに経穴の下またはすぐ傍には、解剖学的にみると比較的太い神経、血管があります。鍼灸治療がそれらに影響を及ぼして治療効果を得ている事は確かですが、科学的機序はまだ解明されていません。
病原体が体内に侵入すると、まず白血球が攻撃します、このような力が免疫力です。鍼や灸をすると血行が改善され、新陳代謝を盛んにしますし、血液中の白血球が増加するので免疫力を高め、病気にかかりにくい体質作りに役立ちます。
WHO(世界保健機関)が、鍼灸治療が効くと認めている疾患を表にしました。
これ以外でも、疲れやすい、食欲がない、不眠、いらいら、不安、のぼせ、冷え、精神的な疲労など西洋医学では治りにくいとされている症状や生体のバランスがくずれたためにおきる疾患も得意としていると言っていいでしょう。
神経系の疾患 |
神経痛、神経麻痺、神経症、自律神経失調症、脳卒中後遺症、不眠症、頭痛など |
感覚器系の疾患 |
仮性近視、眼精疲労、耳鳴り、難聴など |
運動系の疾患 |
変形性関節症、リウマチ様関節炎、頚椎症、五十肩、腰痛、肩こり、腱鞘炎、変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、骨粗鬆症など |
循環器系の疾患 |
本態性高血圧症、動脈硬化症、低血圧にともなう症状 |
消化器系の疾患 |
慢性胃炎、食欲不振、神経性消化不良、便秘、下痢、痔疾患 |
呼吸器系の疾患 |
気管支喘息、鼻炎、感冒、慢性扁桃腺炎など |
泌尿器系の疾患 |
慢性前立腺炎、慢性膀胱炎など |
婦人科疾患 |
月経前症候群、月経困難症、逆子など |
小児疾患 |
夜尿症、夜驚症、消化不良など |
怖くありませんし安全です。わたしたちの鍼灸治療所では、滅菌されたディスポーザブル(使い捨ての鍼)を使用し、一回ごとに使い捨てですから感染などの心配はありません。
一般的に使われている鍼は、柄のついた豪鍼(ごうしん)です。太さは0.2㎜程度のものがよくつかわれます。大変細いものですから痛みもほとんどありません。
日本では江戸時代中期に管鍼法が杉山和一によって考案されました。鍼より2~3㎜短い鍼管に豪鍼を入れ皮膚の上に立てて置き、柄をトントンと軽くたたき、鍼先を皮下数㎜までいれてから鍼管をとります。すでにこの時一番痛い皮膚表面を鍼先は通過しているので痛みはほとんど感じません。その後鍼を必要な深さまでさしてゆきます。その時皮膚の表面を鍼先は通過しているので痛みはほとんど感じません。その後鍼を必要な深さまでさしてゆきます。その時皮膚の表面ではなく奥のほうが、重くなる様な感じや、しびれた感じ、熱くなる感じ、だるい感じなどが生じることがあります。これを、鍼の「ひびき」「得気(とっき)」といいます。今から約2000年前の中国の医学書の「黄帝内経」に鍼はひびいて効果があると記されています。しかし「ひびき」が自覚的になくても治療効果はあります。鍼に慣れておられる方は、「ひびき」が気持良いと思われる方が多い様です。
灸治療に使う艾(もぐさ)は、蓬(よもぎ)の葉から作られます。蓬には血行を改善し、温める働きがあります。
灸にはやけどを起させる有痕灸と、皮膚を温める温灸の二つに分かれます。
有痕灸には、打膿灸(故意に膿ませるもの)と、そうでないものがあります。灸の痕を膿ませない代表的なものに糸状灸(半米粒大以下の艾を糸状にした灸)があります。
灸の温熱で皮膚表面のたんぱく質を変化させて、ヒストトキシンという化学物質を発生させます。このヒストトキシンと艾に含まれるエッセンシャルオイルの浸透作用で白血球が増加し、血液をアルカリ性にします。有痕灸でも熟練者がすえると痕もつかず、その熱さが心地よいのですが・・・。
わたしたちの鍼灸治療所では、おおかたの患者さんには、温灸をしています。温灸にも隔物灸(皮膚と灸のあいだに何か物を置く。例えば味噌、生姜、台座等)、知熱灸(皮膚の上に親指大の艾を置き線香で火をつけ、熱さに耐えられなくなったら艾を取り除く)、棒灸(艾を紙で巻き細い筒状の灸で2~3cm皮膚から離し温める)、灸頭鍼(経穴に刺した鍼の柄に艾をのせて燃やす)などあります。いずれも刺激的な熱さではなく、体に温かさが広がる感覚で気をみたし、艾の滋養分を浸透させます。
灸治療によって血行が改善されエネルギーと老廃物の循環がスムーズになります。体内に余分な水分がたまる「むくみ」、関節に水分がたまり痛む「関節痛」、筋肉に乳酸がたまる「筋肉痛」などの緩和に灸が使われるのも納得がいきます。