2012年2月14日
生活習慣病と漢方
今、生活習慣病が注目されています。食生活の西欧化、車・エスカレーターなどが普及し生活が便利になり運動不足になったこと、過労、ストレス、不規則な生活、飲酒、喫煙などが原因に挙げられています。中本先生に"生活習慣病と漢方"について話を聞きました。
■日本人の約6割は生活習慣病で亡くなる
—生活習慣病とはどんな病気ですか。
「悪い生活習慣を長年続けたことが原因で引き起こされる病気です。肥満、高血圧、動脈硬化、高脂血症、糖尿病、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、不整脈など心臓疾患、脂肪肝、アルコール性肝障害、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胆石、歯周病、痛風、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、骨粗しょう症、それに癌も含みます。
よく耳にする病気のほとんどが生活習慣病に入っています」
—これらの病気の全てが生活習慣の乱れが原因ですか。
「そう言われています。一言で生活習慣病と言っても多因子すぎて、何が原因だったのか分からなくなっていることが多いかも知れません。日本人の約60%が生活習慣病で亡くなっているという統計もあります。最近クローズアップされているのが肥満、高血圧、糖尿、高脂血症などですが、そこからいろいろな病態につながっていきます。例えば、高血圧が動脈硬化となり心筋梗塞を引き起こすように連鎖反応的に悪化するのです。また原因の一つに内臓脂肪が注目されています」
■簡単にチェックできる内臓脂肪
—内臓脂肪というのは。
「腸の壁の周りに蓄積される脂肪のことです。皮下脂肪ではありません。皮下脂肪はお腹周りにドーナツ状につきますが、お腹だけポコッと出ている人がいますね、あれが内臓脂肪です。
最近健康診断に行くと、おへその周りを測って腹囲何センチと教えてくれます。基準は男性が85センチ、女性は90センチで、腹囲がこれ以上あると要注意です。簡単に調べられるので、時々、測ってみられることをお薦めします」
—基準値以上あればどうすれば。
「恐ろしい生活習慣病の入口にいることを自覚して、一日も早く食事を見直し、運動を見直し、内臓脂肪を減らす努力が必要です。
バランスのとれた食生活を心がけ、お好きな運動を少しずつ始めてください。高血圧気味の人はウォーキングぐらいにしながら、危険水域から脱け出ることです」
■体質改善に効果を上げる漢方薬
—生活習慣病に効く漢方薬はありますか。
「"新陳代謝"とよく言われますが、健康のためには、新しいものを採りいれ古いものを排出しなくてはなりません。たとえば"防風通聖散"という薬はこの代謝機能をよくする成分が含まれており、この中に"大黄"と言って便秘を解消できる成分も含まれています。
この処方は、金時代の「宣明論」に鬱熱を治す薬として紹介されています。大正、昭和初期に活躍した森道伯先生の漢方の一派である一貫堂医学では、慢性病や体質的な病気の原因は臟毒(臓器にたまった毒素)であると考え、これを出す薬として体質改善に効果を上げ、現在でも注目されています。しかし、この薬がすべての方に適応するとは言えません。」
■高血圧を放置すると動脈硬化が進む
—私の周囲にも高血圧の方が多いのですが、高血圧とはどんな病気ですか。
「血圧というのは心臓から押し出された血液が血管を通るときに、血管にかかる圧力のことで、これが正常より高い状態が続いていることを高血圧と言います。125/80mmHg未満が正常値です。
やっかいなことに、高血圧状態にあっても、よほど高い場合は別にして、毎日の生活をする上ではほとんど気になりません。しかし放置すると動脈硬化が進み、ある日突然、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの発作に襲われ、運が悪いと、命を失うこともある怖い病気です」
—血圧は薬を使ってでも下げたほうがよいのですか。
「ある程度は下げたほうがいいです。これも生活習慣に注意してください。食生活では特に塩分控えめです。適度な運動、夜は十分な睡眠をとり心臓や血管の負担を減らす、そしてもちろん、タバコも止めた方がいいでしょう」
—漢方では、高血圧に対してはどんな薬があるのですか。
「イライラしている、緊張している人には気を緩める"抑肝散"とか"柴胡加竜骨牡蛎湯"を処方します。むくんでいる人には"五苓散"、頻尿で血圧が高い場合は"八味地黄丸""牛車腎気丸"などを使います。また頭痛のおこりやすい方には"釣藤散""七物降下湯"など体のバランスを優先させる薬を使います」
■糖尿病性腎不全が急増しています
—糖尿病も生活習慣病ですね。
「典型的な生活習慣病の一つです。これも飽食と運動不足が背景にあり、日本が貧しかった時代にはあまり注目されなかった病気です。血液中の糖分、つまり血糖の割合が高くなり、さらに動脈硬化を進ませる恐ろしい病気です」
—どんな症状が出るのですか。
「高血圧で血管を傷めると頭が痛いとか動悸がするとか、症状がでますが、糖尿は痛くもかゆくもなくほとんど無症状で進行します。口が渇き易いとか、軽い疲労ぐらいです。"疲れたからチョット甘いものでも"と言って、お菓子を食べて悪化させている人も多いのです。
細い血管から先に障害が出るのが特徴で、目、腎臓、心臓の血管が知らない内に障害を起こし、視力低下、心筋梗塞、腎不全の原因になります。最近、糖尿病性の腎不全がすごく増えています」
■自分の生活習慣を正すのは自分しかいない
—生活習慣病の怖さがよく分りました。
「人は誰でも"健康に毎日を送りたい"と思っています。しかし健康の喜びを享受するためには、先ず生活習慣を見直す必要があります。自分の生活を正すのは自分しかいない、この単純な事実をハッキリ自覚して、少しでも生活習慣を正す努力をしていただきたいと思います」