2012年9月1日
中本かよ(佳代子)先生に聞く 漢方とガン
『“便秘を漢方で治したい”と言って来院されて子宮ガンが見つかったり、貧血から消化器ガンが見つかったりすることもあります。不定愁訴の中にも原因がガンであるケースがありますね』と話す中本先生。
ついこの間まで、“ガン”と診断されると、それは死の宣告を意味し、家族会議を開いて本人に伝えるかどうか真剣に話し合われたものでした。ところが最近のガン医療技術の進歩はめざましく、ガンは治る可能性が高くなった一方で、治癒後5年以上経過した人に別の部位のガンや転移が見つかるなど“治療技術は進歩したが患者数は増加した”という皮肉な結果になっています。
最新ガン治療と漢方の取り組みについて中本先生に聞きました。
■学問的にはまだ未解明
—ガン発生のメカニズムは。
「ガンがなぜできるか、まだ完全に解明されていません。人間の体には絶えず新しい細胞が生まれており、細胞分裂の段階などで変異すると考えられており、それがガンではないかと言われています」
—それではベストのガン対策は。
「のどにひっかかるような感じを覚えて胃がんに気づいたり、しこりから乳ガンを見つけたりする人もいますが、ガンを自覚できる時は比較的進行しています。
この病気は無症状の内に見つけると治療効果がよいので、こまめに検診を受けて早期発見、早期治療に努めることと、生活、食事を整えておくことがベストです」
■初期ガンを見落とさない
—先生はガンにどう向き合っておられますか。
「私は漢方医学を土台に診療していますので、ガンに対しても中西合作という立場で治療にあたっています。ガンの患者さんが来られたら種類、部位、経過などを診て、その段階で漢方医学、西洋医学の長所を生かした治療を行います。
特に私が気をつけていることは、初期ガンを見落とさないことです。“ちょっとおかしい”と思ったときは“悪いけど検査させて”と言ってエコーをとったり、検査機関に行ってもらって、胃カメラ、CT、MRTをオーダーして調べます。
この段階でかなりの患者さんのガンが見つかっています。“便秘を漢方で治したい”と言って来院されて子宮がんが見つかったり、貧血から消化器ガンが見つかったりすることもあります。不定愁訴の中にも原因がガンであるケースがありますね」
■インターネットで調べられる専門情報
—ガンが見つかれば。
「進行状況によりますが、特に早期ガンの場合は、“絶対治るから西洋医学の病院で治療してもらって下さい”と言って切除・焼灼など積極的治療を勧めます。ここは漢方の病院ですが、医療の東西を問わず、患者さんのガンをその時点で一番いい方法で、1日も早く完治させることが重要です。
私は、その患者さんが罹っておられるガンの専門病院に行くように勧めます。その種類のガンの専門医が多く、いろんな症例を経験しているからです。最近は情報開示が進み、インターネットでも情報が簡単に入手できます。
しかし、ガンが相当進行していると分った場合などに多いのですが、年齢の問題やガンは見つかったが手術をできない、あるいは、ご自身の哲学で手術したくない、などという方で当診療所での治療を望まれる方もおられます」
■漢方の3つのアプローチ
—漢方の場合、どんなガン治療を。
「その患者さんのガンが早期なのか、進行した状況なのか、いろんな段階がありますが、大別して3つのアプローチがあります。
一つは、抗ガン剤治療や手術をされている患者さんに対して、その副作用を緩和し、受けておられる治療に耐えられる体力をつけるために漢方を利用します。抗ガン剤治療の場合、嘔吐、下痢、発熱、貧血などの副作用を伴うことがありますので、漢方を使って体の機能が損なわれすぎないようにするわけです。
もう一つは、ガンに効果があると歴史的に記録の残る生薬を処方することです。例えば、冬虫夏草とか白花蛇舌草とか、霊芝などです。ただ、これらの生薬は、例えば、産地が違うと効果の判定が一定でないなど、西洋医学の目から見れば信頼性に欠けるように見える側面があります。しかし私はこれらの生薬がガン患者さんの腫瘍マーカーを安定させた実例を見ています。
日本で人工培養に成功 冬虫夏草
とくに冬虫夏草というのは虫体に菌が入ったものですが、滋養強壮剤的にも様々な効果が実証されています。最近、アメリカ資本が現地の人を買収して買い付けているという話を聞きました。そのため値段が高騰していますが、日本で人工培養に成功し、今後の効果、実績が期待されます。
3つ目は、ガンの治療中や治療後のQOL(生活の質)を安定させることです。体力が低下し、むくみがひどく、食欲がなく消化・吸収能力が低下し、ただ寝てるだけというのでなく、漢方薬の力で、最低限の生活は自分でできるぐらいの気力、血液の流れなど気血水の流れを整え、生活の質の向上を図ることが、漢方の役割の一つだと思います」
■ものの考え方で人は不幸にも幸せにもなる
—ガン患者さんにとって最も大切なものは。
「それは患者さんのものの考え方です。考え方がその人を不幸にも幸せにもします。ガンになると、その人の考え方、人間としての哲学が前面に出てくるものですが、私はそれを一番大切にして患者さんと接して、そこから治療の方法を探っていくようにしています」
—漢方では、高血圧に対してはどんな薬があるのですか。
「イライラしている、緊張している人には気を緩める"抑肝散"とか"柴胡加竜骨牡蛎湯"を処方します。むくんでいる人には"五苓散"、頻尿で血圧が高い場合は"八味地黄丸""牛車腎気丸"などを使います。また頭痛のおこりやすい方には"釣藤散""七物降下湯"など体のバランスを優先させる薬を使います」
■糖尿病性腎不全が急増しています
—糖尿病も生活習慣病ですね。
「典型的な生活習慣病の一つです。これも飽食と運動不足が背景にあり、日本が貧しかった時代にはあまり注目されなかった病気です。血液中の糖分、つまり血糖の割合が高くなり、さらに動脈硬化を進ませる恐ろしい病気です」
—どんな症状が出るのですか。
「高血圧で血管を傷めると頭が痛いとか動悸がするとか、症状がでますが、糖尿は痛くもかゆくもなくほとんど無症状で進行します。口が渇き易いとか、軽い疲労ぐらいです。"疲れたからチョット甘いものでも"と言って、お菓子を食べて悪化させている人も多いのです。
細い血管から先に障害が出るのが特徴で、目、腎臓、心臓の血管が知らない内に障害を起こし、視力低下、心筋梗塞、腎不全の原因になります。最近、糖尿病性の腎不全がすごく増えています」
■自分の生活習慣を正すのは自分しかいない
—生活習慣病の怖さがよく分りました。
「人は誰でも"健康に毎日を送りたい"と思っています。しかし健康の喜びを享受するためには、先ず生活習慣を見直す必要があります。自分の生活を正すのは自分しかいない、この単純な事実をハッキリ自覚して、少しでも生活習慣を正す努力をしていただきたいと思います」