耳、鼻、のどの病気を治療するにあたり、漢方療法を選ぶ人が少なくありません。長い伝統を持ち、色々な意味で自然に近く、常に患者さんの声に耳を傾ける、身体にやさしい治療法が、大勢の方から支持されています。今回は、耳鼻咽喉科領域の症状に漢方では患者様にどのように対応されているのか、中本先生からお話を伺いました。
"漢方は同病異治"(同じ病気であっても異なる治し方が多い)
多数の患者様が漢方を選択されている
―どんな症状の方が多いですか。
「鼻汁、鼻閉、後鼻漏、副鼻腔炎(蓄膿症)、アレルギー性鼻炎、耳閉感、耳鳴り、めまい、メニエル症候群、突発性難聴、慢性咽頭炎、偏頭炎など実に様々です。そしてその原因も多様で、体質が関与するもの、ストレスや寒暖などの環境が関与するもの、風邪などの炎症から慢性化したもの、又はそれらの複合した原因などが考えられます」
―鼻炎などはやはり冬に多いのですか。
「そうとは限りません。アレルギーは春先に多いですし、冬場、急に寒くなる時期はやはり増えますね。春から夏にかけて気温があがるときに副鼻腔炎が悪化したり、同じアレルギーでも時期によって症状が多少変化することがあります」
東洋医学的な診察が基本
―アレルギーも漢方で治療される。
「"アレルギーです"と言ってこられて、"鼻水が出ます"とおっしゃっても、ここでは東洋医学的な診察をするのが基本です。同じアレルギーを持っておられたとしても、体質が全く違うことがあるのです。"アレルギー=抗アレルギー剤"ではなく、患者様にとって、どのような体質で、何が過重となっているのか、バランスの乱れを見る必要があります。そのため同じ"鼻水が出る"症状でも全く違う薬を適用することがあります」
―アレルギーというのは。
「アレルギーというのはバランスをくずした免疫が過剰な状態にあるということです。だから風邪とは違います。風邪はバランスをくずし免疫が低下しているということです。アレルギーの場合はほこりや花粉が飛んできてもまるで敵が襲ってきたかのように単なる刺激ではなく過剰に免疫系が反応してしまうことです」
日頃の養生が大事
―アレルギーにはどんな対応を。
「大きく分けて標治と本治があります。標治というのは表面的に治すこと、本治というのは体質を改善することです。標治を先に行うのは、炎症などを伴っており、急性の粘膜病変がある場合などです。鼻に炎症があれば鼻の、喉に炎症があれば喉の炎症を取り去る抗炎症的な漢方があります。この炎症を取り除く漢方は、抗生物質のように耐性ができないと言われています。
大体11月頃から急な気温低下に伴って鼻水が出るようになってくるという場合は、最初から本治の冷えや水の代謝を改善する治療をします」
―日頃の養生が大事ですね。
「夏の過ごし方が秋冬の体調を変えることがありますので、本来は、夏でも秋冬を考えた養生が必要です。伏病といって、知らない間に作ってしまっている冷えや水分の摂りすぎによる水帯が、次の季節に症状をひきおこします。暑さがとどまるといわれている処暑の頃(8月23日頃)から秋分(9月23日頃)にかけて真夏にくらべて気温も落ちついてくると水代謝力が低下してきます。また、胃腸も冷えて疲れてきます。
しかし、暑いといえば暑いので、夏場と同じような水分のとり方をしてしまう。そうすると代謝が落ちているにもかかわらず、水分が過度になり、その水分が停滞して、今度、急に気温が下がったときには、それが下痢や、鼻水や、めまいをひきおこすことになります」
患者さんの身体に何が起きているか。
―例えば、患者さんが、聴覚等、耳の異状を訴えられたら。
「漢方の場合は、まず患者さんの身体に何が起きているのかを診ます。そうすると、五臓六腑が関わっていることもあります。その中でストレスが関わっている人もあれば(肝気の滞り)、冷えが関わっている人(腎気の弱り)、血流が悪い人もある。最終的には耳に病状が表われるのですが、一歩、二歩、三歩ぐらい下がって耳に症状が出る前に何がおこっていたのか、環境や飲食、体質などから症状を読み解きます。それを弁証と言います。漢方の場合は"同病異治"だと思いますね。同じ病気であっても体質が様々ですので、異なる治し方が多いのです」
―耳鼻咽喉の病気は身体と全部つながっているものですか。
「漢方的には全部つながっていますね。特に大切なのは、"腎"という生命の種火です。漢方表現での"腎"が弱ってくると耳と骨が弱ってくるといわれています。これは中国最古の医学書である『黄帝内経』に書かれており、年をとると耳と骨は傷むので、それを分かったうえで、"腎"が傷まないような養生:冷え対策、適度な運動、食事、そしてストレスを溜めないことが大事なのです」