東洋医学では、病気治療も毎日の食事も、ともに健康のためのものであり、源は同じと考えられ、このことは“医食同源”の言葉でよく知られています。常に健康を維持して元気に生活するため、できれば、毎日の食事は新鮮な旬の食材をいただきたいものです。薬膳料理など人気の高まる“食と東洋医学”をテーマに中本先生にお話を伺いました。
生態系の大きな流れに逆らわず暮らす
―東洋医学では“食”はどう位置づけられているのですか。
「東洋医学においては、“食”は特別なものとしてでなく“身体を作るもの”と考えられています。身体は食べ物からできているという考えです。みなさんの身体は食べ物でできていますから、食べ物の持つ栄養価をうまく取り入れれば健康体でおれます。しかし、うまく使いこなせないものを体内に入れると、体内は代謝利用できなかった病理産物がたまり、病気になってしまいます。
東洋医学に“身土不二(しんどふじ)”という言葉がありますが、これは、身体と今住んでいる土地柄とは一心同体のようなもので切り離すことができず、土地のものを食べ、旬のものを食べていると健康によいという意味です。病気になってしまった場合も、それを治すのにふさわしい食べ物が自然界に必ずあると考えられています。生態系の大きな流れに逆らわずに暮らすことが大切です」
旬のものを食べる
―病気の原因の一部は食べ物の中にあると。
「そうです。土地の風土や季節に応じた食物を食すことで、その時期に合ったからだづくりを助けることができます。便利になって季節はずれの物もすぐ手に入りますが、かたよらない様注意が必要です」
―旬の食物とは。
「旬の食物とは、その時期の全ての恵みを受けているものです。その季節の太陽の光の強さ、それを防御する抗酸化力を備えた野菜、その時の土の栄養素や微生物、全てが一番いい状態で成長しています。旬のものを食べることで、私たちはその食物の持つ生命力を食すことができます。
豆類の旬は春に多く、これから発芽して大きくなるエネルギーが潜んでいます。夏は身体の熱がこもりやすいので、夏野菜にはミネラルや水分を豊富に含んだものが多いです。秋野菜は、乾燥する季節の中で、軽い潤いを与えてくれる冬瓜、ゆり根などが旬になります。冬は根菜類ですね、だいこん、にんじん、里芋等の、温野菜です」
冷性の食物、温性の食物
―東洋医学では、食物は冷性と温性に分けられるのですか。
「分けられます。熱いところには冷やす食材が多く栽培されていますね。冷え性気味の方はできるだけ温性の食べ物を摂ると良いです。また、どう食べるかによって変えて行くことができるのです。例えばお浸しにくるみを入れたりして漢方的“腎”を養います。体の熱をとるための野菜は冷やして使うと一番威力が出ますが、トマトを卵と炒めたり、スープの中に入れて酸味として摂っても冷やしすぎずさっぱりとして美味しいですよ」
どんな野菜を食べればよいか
―イライラしているときは酸っぱいものを食べるとよい、と聞きましたが。
「あまりきつい酸味でなくて、甘酢ぐらいがいいですね。消耗した陰血を酸味で収れんするわけですが、イライラしている人は、イライラで相当体力を使っており、結構エネルギーが漏出しているので、それを甘酢で気を暖めながら治すという意味があります」
―野菜も種類が多い。
「“野菜と聞いて何を思い浮かべますか”と聞くと、きゅうり、キャベツ、レタス、トマトといろいろと出てきますが、体を冷やす葉野菜が多いですね。身体は不足しているものを求めていることが多いので、その身体の声を聞いて今必要な野菜を選ぶことが大切です。やはり旬を考え、野菜一つとっても、体を冷やすか温めるかを考えたいものです」
身体にたりないものを求める身体に
―野菜を食べればそれでよいわけではない。
「今日は少し酢の物が食べたい、ピリッと香辛料の効いたものが食べたい、あっさりした物、肉類が食べたい…など、これはまさにからだの声です。暑い=冷たい物という固定観念ではなく、本当にからだが欲している物を腹八分目(又は六分目)に食している時、“まことある食事”が叶うと言われています。
からだが本当に求めている物(不足している物)を食べたいと感じられる身体になって頂きたいと思います」
―自然に戻ることですね。
「田舎に行くと“何もないけれど”と言って自家製の、とれたばかりの野菜を出していただくのですが、それが“野菜とはこんなに力強くおいしいものか”と思うほどおいしいのです。“そこにニラがあるやろ、サッとゆがいて鰹節をかけたらおいしいから”と言われて、その通りすると本当においしいですね、スーパーで売っているものと全然違います。農家の方のお肌なんかツヤツヤです。その差は新鮮さと農薬や添加物が散布されていないせいでしょうか。天・地・人の循環で生命ははぐくまれています。自然の一部として生きることが本当の健康ではないでしょうか」