最近、物忘れが多くなったと、真剣に心配されている方に、受診をお薦めします
“この頃、よく人の名前を忘れるようになった”“認知症になっているのではないか”などと不安に思っておられる方が増えています。テレビや新聞でも、毎日のようにこの話題を取り上げ、医療機関においても“物忘れ外来”を設置するところが増えています。
当診療所においても、心配を口にされる患者様が少なくないことから、昨年6月、“物忘れ外来”を開設し、診療活動を続けています。気になる物忘れが、万一、認知症の初期段階であると分かれば早期治療につながりますし、認知症でないと分かれば、安心、自信につながります。今回は中本先生に“物忘れ外来”についてお話を伺いました。
認知症という言葉が不安や恐怖心をひきおこす
―“物忘れ外来”を始められた動機は。
認知症とかアルツハイマーとか、日々、ニュースで報じられることが多くなりました。当診療所も、創立して30年以上になり、当初から通っていただいている方も多く、お聞きするのは“どうなるんだろう”という不安の言葉です。
心配される方に限って、大丈夫なことが多いのですが、不安と言うより、恐怖に近い思いを持っている方もおられます。中には、「認知症になるなら他の病気になる方がよい。」とおっしゃる方もあり、その声からも、“自分のことが自分で分からなくなる恐怖”がうかがえます。それほど心配されておられるなら、気になる方には一度、検査を受けてみませんかとお薦めする“物忘れ外来”をスタートさせました。
診療所ではどのような症状でも気軽に話してほしい
―漢方診療所ならではの特長はありますか。
漢方医学というのは、体全体を俯瞰して全体像を捉えることをしますので、物忘れだけにポイントを置くことはありません。筋力の低下や、感情が鈍麻になっていくなど、からだの動きや思考、感情など全体的にバランスを崩した機能低下がきかっけを作ることもあります。
その中で、“私、大丈夫かしら”と思っておられる内容を、認知症の専門家が診察しますが、その他に、体そのものの状態がどうなのか、例えば、冷えるだけでも筋肉の活動性は低下するわけで、筋肉の活動性が低下することは脳の血流低下にもつながり、脳機能も徐々に低下していく可能性が高いのです。
もし、認知症でなかったとしても、何か、その方の機能低下につながる病態、もしくは、未病的な状態があれば、そこをフォローすることで、再度活性化できると思っています。決めつけるだけ、診断だけとは思っていません。体質や現状を漢方的にも見極めることにより、予防や機能改善になると思いますので、診療所ではどのような症状でも気軽に話していただければと思います。
検査を受けることをお薦めします
―そこが、漢方診療所ならではの物忘れ外来ですね。
そうですね。漢方的診療も行い、その方の体質・特性を知る(漢方的に弁証する)ことで脳神経機能をできるだけ活性することができると思っています。症状で言えば、未病の状態ですね。真剣に物忘れを気にされておられるならば、是非一度、検査を受けることをお薦めします。何もなければ、“私は大丈夫”と自信につながります。悪い結果だったら嫌だと検査を拒む方が多いようですが、どのようなことが起こりやすい体質かを知り、少しでも健康年齢をのばしていただきたいと思います。
―診察は何から始まるのですか。
いきなり検査でなく、何が気になるか、他の身体状況、足が冷えて仕方ないトイレが近いなど身体についてお聞きします。
それからどういうふうに物忘れするかなどをお聞きします。ものを見て記憶ができているか、空間認識ができているか、簡単な計算、暗算ができるかなど、書いていただいたり、お話ししたりです。
早期発見が大切
―やはり、早期発見が大切ですか。
早期発見は絶対大切です。早期発見で何かしらアプローチでき、進行を防げる可能性は高いです。物忘れ外来に来られた方の中には何も問題のなかった方が多数おられます。あくまで、物忘れ外来というのは“心配だったら一度行きましょうよ”ということです。
―日常生活で物忘れをしないために、これをすればよい、と言うようなことは。
日々、人と交流することです。人と会話すること、それに体を動かすこと、感動することも大切です。良い本や映画などにふれて感激すること、それに共感すること。人と会話するときも、楽しくひと時を共有し、思いを共感できると良いですね。犬や猫と接することも、とても良いです。そして、特別な運動でなくても、生活の中で体を動かすことです。
楽しみながら足助體操や八段錦をし、美味しく食事をする。
―体を動かすことも物忘れの予防になりますか。
東洋医学的な考え方では“人間の体は全てつながっている”と考えます。例えば、右腕を動かしていると、動かしているのは右腕であっても、血管は体中を走っていて血液や“気”は全身を流れているのです。足助體操の足助先生は“動かせるところ、どこからでもいいから動かせ”と言っておられます。使ってないところは、若い人であっても、どんどん硬化萎縮していきます。これを退行性変化と言い、足助體操では、寝ながら内臓の活性化と退行性変化の整調を同時に行います。
SARS(重症急性呼吸症候群)の治療の指揮をされた、中国広州中医薬大学の永久名誉教授 鄧鉄濤先生から伝授して頂いた八段錦も五臓六腑の機能維持になります。どちらも畳一畳分の広さでできます。
足助次朗先生は、80歳の時に腕立て伏せを100回しておられましたし、鄧先生は、お会いした時88歳でしたが、とてもお元気で、その理由をおうかがいしたところ、長年八段錦をしているからだと教えてくださいました。
そして、食事です。調理は様々な行程があるので、脳の機能維持に役立ちます。そしておいしく食べること。食後に「ああ美味しかった、ごちそうさま。」と言ってください。当院では、薬膳の良さと、生化学的に細胞活性に必要な栄養素を結びつけた薬膳栄養学も行っております。興味のある方はお問い合わせください。
どこからでも、少し始めてみませんか?合理的な生活より、丁寧な生活が健康寿命となるのではないでしょうか。