動物、植物、菌類、藻類など、ほとんどの生物には、約24時間周期で変動する生理現象のリズムがあります。最近、このリズムは『概日リズム』または『サーカディアンリズム』と呼ばれ、それを司る“時計蛋白”や“時計遺伝子”が機能していることがわかってきました。
一番関係が深いのが光に対する感受性です。加齢と共に光感受性が低下し、リズムが狂いやすく、それが様々なホルモンの変化や代謝にも影響し筋力低下や疾患を引き起こします。その一方で、食事も光とは別のリズムで影響していることも明らかになっています。
最古の医学書と言われている『黄帝内経』(紀元前2世紀頃)では、驚くことにすでにこのことについての記載があり、朝3時~5時肺の経絡から目覚め→大腸→胃→脾→心→小腸→膀胱→腎→心包→三焦→胆→肝と順に身体の気がめぐり充実すると書かれているのです。古代の人々の身体の機能を感じ取る感覚は素晴らしく、我々は便利な科学の恩恵の代わりにその感覚を鈍らせています。冬では特に朝光にあたること、そして全身に気をめぐらせる感覚とともに深く呼吸をすること。これを気持ちの良い実感とともに行うことが、皆さんの身体を、細胞を目覚めさせるのです。
理事長インタヴュー
魅力あふれる漢方の世界
日本の高品質な漢方薬がみなおされている
いま、漢方が人気です。コンビニの棚には漢方の文字を冠した商品、スナック菓子や入浴剤などが、ところ狭しとならんでいます。“漢方由来”と分かると安心感を覚えるようです。中国人旅行者が、日本の漢方薬はよく効くからと大量に購入し“本場の人の爆買い”がニュースにもなっています。
“西洋医学は病気を診る、漢方医学は人間を診る”とよく言われますが、漢方治療の本質をついている言葉だと思います。最近はがんのような難病も漢方で治療したいという人が増え、その理由に“身体にやさしい”ことをあげています。
3000年も前からある自然の薬でありながら、今も多彩な薬効を期待できる漢方薬は、まさに人類の智恵の結晶といって過言でありません。魅力あふれる漢方の世界をテーマに中本先生に話を聞きました。
最初に飲んだ漢方薬は人参の粉
―先生が最初に漢方医学に触れたのは?
「学生の時です。当時、同じ下宿にいた東洋医学の研究員が、ある日“あなた、冷え性でしょう、飲んでみなさい”と言って人参の粉をくれました。それが最初です」
―人参の粉は効きましたか?
「おいしくなかったですね(笑)効いたという実感もありませんでした。まだ20歳で冷え性という実感もなく、半信半疑で飲んだことが思い出として残っています。
本格的に漢方に取り組み始めたのは、20数年前にこちらの診療所に、内科の非常勤医としてお世話になった頃です」
どうして治るのだろうこの人々は
―なにか動機があったのですか?
「動機は、漢方薬を飲んでどんどん症状が改善していく方に遭遇したからです。“どうして治るのだろうこの人々は”と思いました。不思議に思い,本を読んで調べたりしたのですが、中医学の深淵を垣間見てしまった!というのでしょうか、読むほど調べるほど、どんどん分からなくなるのですね。
私が知りたいのは“この薬はこの病気に効く”ということでなく、機序(きじょ:機構、メカニズム)なんですね。古代の人は何を見て、何を感じて生薬調剤をしていたかに興味が出てきて、それが漢方の勉強を本格的に始めるきっかけでした」
養生することが漢方医学の基本
―病気の成り立ちをどう見るか。
「患者さんが過去にどういう生活をしていたか、何を食べているか等を把握することが大切です。病気になる前に気・血・津液やその巡りに偏りが生じてきます。そのためその偏りを作る生活を考え直さないといけないわけです」
―そのためには養生が大切。
「そうです。毎日の食べたもの、身体の動かし方、深く呼吸をしているか?それによる血の巡りは良いか?など、日々のことで身体が成りたっているので、病気にならないためには養生することが大切。漢方の中には予防医学もセットになっているわけです。薬膳医学もそうです。体質を見極める、自分に向き合うこともそうです。養生が漢方医学の基本とも言えます」
異常ありません!?未病という病気
―漢方の未病とはどんな病気ですか。
「まだ病気になっていない状態、不具合を感じているけれども、西洋医学的には“異常ありません”と言われる状態です。むくみやすい、頭痛がおこりやすい、強い冷えを感じるなど、症状はあっても検査結果に出ない、血液検査に出ない、画像診断にも出ないので、医者から“異常ありません”と言われるわけです。しかし、患者さんは“おかしい”と言っておられるわけですから、その人の身体の声が何か出ているということです。その時点で身体機能や気・血・津液の偏りに気づいて、改善する手ほどきをすることになります。
また反対に、健診などで数値の変化があるのに、自覚症状が全くない場合も考えられます。これらに目を向けることが病気予防と養生につながるのです。
食事を見直し、適切な体の動かし方を知り、必要があれば漢方薬などを使って状態を整える。私どもが推奨している『医・食・動』を有機的に組み合わせて(漢方的に)症状を改善していく方法です」
面倒くさがらず丁寧な食事を
―食事療法も大切ですね。
「食事はよく噛んで食べる。唾液をよく出す。自分の身体を使って食べることです。身体は食べ物でできている!と考えること。偏った食べ物ばかり食べていると偏った身体になります。最近ではパンなど小麦に偏る方が多いようですが、炭水化物に偏りがちになり、グルテンが腸粘膜に炎症を起こすといわれています。
漢方では臓器に合わせて五色(心<赤>、脾<黄>、肺<白>、腎<黒>、肝<青>)が決められています。それらをまんべんなく食べるのが健康によいとされています。例えば黒なら黒ごま、きくらげ、ひじき、こんぶ、たくさんあります(笑)。少しずつまんべんなく、面倒くさがらず丁寧な食事をすることが大切です」
急性病変については早く効く薬がある
―漢方は効果がゆっくり現れるので
急病には向かないと言う人がいますが。
「そんなことはありません。病状によります。風邪などは早く効かないとだめです。後漢時代に書かれたと考えられている「傷寒論」は急性感染症の治療を著していると言われています。今、喉が痛いと言っているのに“ゆっくり効きます”とのんきなことを言っておれません。急性病変については早く効く薬があります。
しかし、養生できず長い時間をかけて作り上げた病態はそんなに急には変わりません。体の細胞をつくりかえるには時間がかかります。加齢、生活習慣からきたものの場合、その病態を作り上げるのにかかった時間が必要だという人もいます」
人類の智恵の結晶・漢方薬