最近、心身のバランス失調と感じていたり、または性格や癖としてとらえていたことが、発達障害ではないか?と言われたということをよく耳にします。漢方的な見方やそのための食事や栄養療法などはあるのでしょうか?また、いま話題の栄養療法:オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)と中医学とのつながりについても、じっくり中本先生にお聞きしました。
疲れやすい子供と重なる部分がある
―発達障害の診療を始めたきっかけは?
いつもだるい、しんどい、熱っぽい、朝は起きられない、勉強に集中できない……。成長過程の子供たちの中には、この様な症状を訴えることがしばしばあります。慢性疲労症候群、起立性調節障害などと診断される場合や、成長段階のホルモンや栄養バランスの乱れ、ストレスなどが関与している事も多くみられます。治療を重ねるうち、発達障害の症状と重なる部分があることに気づきました。これが発達障害のお子さんを診るようになったきっかけです。
発達障害と言っても様々な病態がありますので、小児科・小児精神科などの診断を仰ぐ必要があります
一人の人格として向き合う
―発達障害のお子さんに、どんな手順で診察しますか?
病気あるいは障害の疑いとしてではなく、一人の人格として、心身の不調として向き合います。最初に、お母さんに簡単な問診票を書いていただきます。その問診票を見ながら、お子さんを見ていて一番気になるところ、一番しんどそうに見えるところを尋ねます。あるいは、お子さんが発する言葉で気になるところ、さらに、鼻をすする様子、首を小刻みに振るチック現象、匂いなど、全身から発する小さな信号を読み取り、そこからお子さんの体の中で起きている異変や問題部分を探っていくのです。
脈診、腹診も欠かせません。「しんどい」と訴えたり、実際、客観的にそのように見えても、脈の状態は様々です。内に秘めたエネルギーが本当に弱っている場合もあれば、ストレスを抱えて強い脈になっている場合もあります。
また、腹診によって胃腸の状態や気の停滞を診ます。そして、食事や睡眠の取り方についても詳しく尋ねます。漢方の三千年の歴史を通して、食事こそ最重要な医療と考えてきた「医食同源」という言葉の通りです。
診察は医師の中西医学の智慧と五感を総動員してということになります
しんどい気持ちに寄り添う
―診察の後は治療ですね?
例えば、ADHD(注意欠如・多動性障害)や自閉症スペクトラム障害のお子さんと一言で言っても、それぞれの症状や原因は異なります。その気質を見極めた上でのことですが、落ち着きがなく、イライラし、衝動性のある動きをしたりするというお子さんに抑肝散加陳皮半夏を処方したり、甘麦大棗湯などを頓服で処方することがあります。この処方は、自身の気持ちを落ち着かせる効果があります。お子さんは動き回りたくて多動になっているとは限りません。あるいは、動こうとしても、動けないこともあります。身体は成長段階にあるため、漢方的五臓の働きを整え代謝機能のエネルギーを充実させることで気持ちと体のバランスを整え、生活リズムが改善されることもあります。特に内臓機能が充実していない場合には黄耆建中湯や補中益気湯などを処方することがあります。お子さんのしんどい気持ちに寄り添うことが何よりも大事です
偏った食べ方が異常を生む
―食事指導は?
お菓子など甘い物や脂質の多い物を好むお子さんが多いのですが、実は好みの偏りにも脳科学的に理由があると言われています。しかし、これでは身体の代謝機能に異常が生じ、胃腸にも悪影響を与えます。身体が苦しく、イライラするような症状となったり、血糖の変動が激しくなり、眠気や倦怠感に襲われることもあります。このため、お子さんの様子を見ながら、糖質制限も指導します。また、添加物などの影響により、腸からの栄養吸収障害や、重金属の蓄積なども問題になることがあります。これら身体に不適切な物質の停滞は漢方的には、「痰熱邪が停滞する」状態と考え、化痰・活血・清熱などの生薬を使い、腸の機能を活性化し老廃物の排除、リンパの停滞や瘀血の改善を図ります
個人個人の体質にアプローチ
―食事・栄養療法を重視するオーソモレキュラー医学と中医学との関係は?
オーソモレキュラーと中医学は言語の違いがある、つまり表現の仕方が異なるだけで、本質的に同じ医学理論であると思われます。近年、栄養のバランスが神経系や感情にも影響を与えることがわかってきました。中医学も、各所における生体機能のバランスの乱れ、それによる五臓六腑の機能亢進や低下、病邪の停滞、陰陽・寒熱の変化などを読み解き、漢方薬や食事・運動・睡眠によって心と身体のバランスを取り戻し、整えていくことを目指しており、栄養学的には両者に違いはありません。しかし、ミネラルやビタミンの不足は代謝やホルモン活性に必要であり、成長期には特に早急に補充する必要も出てきます。心身を整える漢方だけでは時間を要することがあるため食事指導(サプリメントも考慮)も行います。薬膳に代表される中医学の食の考え方には五気六味があり、「冷える」「肩が凝りやすい」「むくみやすい」など個人個人の体質にもアプローチできる考え方があります。同じ栄養素でも、体質に合った食べ方があるのです
後天の精
―胃腸が一番大事?
中医学では、後天的には胃腸が一番大事だと考えています。胃腸を元気にすることがすべての出発点です。なぜかというと、人間は胃腸を通じて栄養を取り込み、その粘膜バリアの働きで毒物が体内に入るのを防いでおり、清濁を分ける仕組みがあるからです。中医学では、食から得られるエネルギーと栄養を“後天の精”と言い、これにより五臓六腑を滞りなく機能させることで心身のバランスを回復し、様々な症状を改善していくのです。思春期の問題に限らず、食から将来の健康をチョイスする(選択する)ことができるのです