2013年7月19日
"現代病の患者さんに対して、漢方では患者さんからゆっくりお話しをお聞きし、感じていることをしっかりと出してもらいます"
時代が生んだ病い 現代病
"昭和"を描いた"3丁目の夕日"という映画が大ヒットしました。昭和と比べ平成の私たちの暮らしは格段に便利になり、市内には高速道路が縦横に走り、街角にはコンビニ、携帯電話が普及し、食生活も豊かになりました。
しかし一方で、ストレスの多い社会となり、現代病とも呼ばれるよく原因の分からない疲労、頭痛を訴えて病院を訪れる人も少なくありません。近代化した時代が生んだ病いとも言える現代病に、漢方は今どう向き合っているのか。中本先生にお話しを聞きました。
■地下鉄に乗れなくなった青年
―知人の息子さんが、会社で受けたパワハラが原因で地下鉄に乗れなくなりました。
「最近そんな話が多いですね。私達はこういう場合、患者さんからゆっくりお話しをお聞きし、感じていることをしっかりと出してもらいます。"とにかく、しんどい"と訴えられますが、血液検査では異常は見つかりません。ものの受け取り方、育った環境、体質、性格が千差万別なので症状も様々です。
大事なことはその人がストレスと思えばそれはストレスで、他人が決めることではなく、周囲の人たちはそのことを認識することです」
■現代の生活習慣に問題が
―現代病の病因は何ですか。
「漢方では、内傷七情と言って"喜、怒、憂、思、悲、恐、驚"の7つの感情が原因で心身が傷つくと考えられています。加えて私は現代の生活習慣にも問題があると思います。1年中、酷寒でも酷暑でも、空調された一定の温度のなかで過ごすため室内では夏は冷えすぎ、冬はのぼせやすくなる。外気との温度調節が困難となり、昼も夜も蛍光灯の明るい光のもとで、四季に関係ない快適だが不自然な生活を送るわけです。その結果と七情が重なり不調となって身体の弱いところに出てきたのが現代病だと思います。
深夜遅くまでテレビやパソコンを見て、空腹になればコンビニのインスタント食品、仕事は終日ビルの中、ギスギスした職場の人間関係、このような環境も現代病の背景にあると思います」
■身体の弱い部分が攻撃される
―現代病の患者さんは自分の病気をどう訴えられますか。
「表現のされ方はさまざまですが、大体、"しんどい、疲れている、眠れない、眠りが浅い、会社に行くのが辛い、仕事中眠くなる、集中力がない、首がこる"などと訴えられます。ストレスが主であっても西洋医学的鑑別診断と"弁証"という漢方的診断は重要です。
当院では漢方と鍼灸で治療をしますが、治療法は一人一人違います。内傷七情も考慮しますが、感情の支配臓器がそれぞれ違うので経絡も違ってくることから、身体のどこが緊張しやすく、どこがよく冷えるのか、胃腸の調子はどうか、同じストレスでも血圧が高くなる人、頭痛となって出てくる人、首のこり、胃の痛み、下痢、不眠、動悸など病状は様々です。患者さんの身体の弱い部分が攻撃されてそこにかたよりが出てくるからです」
■身体と精神のバランスをとる
―病因は患者さんの話の中から見つけられる。
「患者さんの身体全体、患者さんが話される生活の様子から不調の原因を探しだして、身体と精神のバランスがとれるように調整し中庸に向かうように治療していきます。非常に気が高ぶっているときは、先に気を落ち着かせる漢方薬を使って、弱いところを補っていきます。気があがりすぎていると自分の身体で調整することができなくなるからです。
しかし心身のバランスはとれてもストレスがとれるわけではありません。ストレスの原因そのものは、漢方ではどうしょうもありませんから」
―漢方では人間の身体を上下に分けて考える。
「人間の身体は横隔膜を境に上と下に分けて考えることが出来ます。ストレスなどで体が緊張し、深く呼吸しなくなると横隔膜の機能不全がおこり気が上に貯まりやすくなります。気滞、気逆という症状が出ます。ノドがつまる、息がすえない、動悸、すぐ汗をかく、頭が痛い、耳鳴り、腰がだるい、冷える、便が緩いなどの症状です。漢方では、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏などを処方します。すると横隔膜で隔てられていた気の滞りが緩んで症状が改善されます。
気が上にたまるのでなく下に陥没することもあり、大気下陥と言います。気が下に落ち込んでしまって上にあがってこない状態で、ひどい場合はうつ的症状や動けない、食べることも出来ないという状態になることもあります」
■基本は"心身一如"
―西洋医学と漢方の違いは。
「西洋医学では、カウンセリングを行い、安定剤、睡眠薬を処方する治療が一般的です。当院では、患者さんの訴えに耳をかたむけ、内傷七情が患者さんの身体にどうからんでいるかを探りながら治療を行います。そして"心身一如"という漢方の考え方を基本にして、できるだけ安定剤、睡眠薬を使わず、身体全体を見て気のバランスを回復する薬を処方する治療を行っています。
当院の玄関に掲げている看板には〈心療内科(漢方)〉と書いてありますが、(漢方)とあるのはそういう意味です」